29 9月 アンヌ・ボナン&トマ・クレール Anne Bonnin & Thomas Clerc
アンヌ・ボナンは2009年にリカール企業財団で「Pragmatismus & Romantismus(プラグマティズム&ロマンティズム)」展を、ジェンヌヴィリエのエドゥアール・マネ・ギャラリーで「Sauvagerie domestique(仮題:家庭内蛮行)」展を企画しました。2012年にはレンヌ市で開催の現代アート・ビエンナーレ「アトリエ・ド・レンヌ」でキュレーター兼ディレクターを務めたほか、各種美術雑誌(Zéro-Deux、Art press、Mouvementなど)に寄稿しています。
近代文学のアグレジェ(上級教員資格者)であるトマ・クレールは教師を務める傍ら、作家でもあります。2005年にはフランス人作家モーリス・サックスの伝記『Maurice Sachs le désoeuvré(仮題:所在なきモーリス・サックス)』を出版し、注目を集めました。また、自伝を定義することの難しさを取り上げたエッセー『Ecrits personnels(仮題:私的な著作)』 を執筆しているほか、最近では、住いのあるパリ10区の全体像を捉えた体系的なガイドブック『Paris, musée du XXIe siècle(仮題:パリ、21世紀の美術館)』を著しています。また、ヴィトリー=シュル=セーヌにあるヴァル・ド・マルヌ現代美術館(MAC/VAL)、ポンピドー・センターのイベント「ヌーヴォー・フェスティバル」、ジェンヌヴィリエ劇場、パレ・ド・トーキョーなどでパフォーマンスも行っています。
アンヌ・ボナンとトマ・クレールは2014年9月から12月にかけてヴィラ九条山に滞在。二人の共同企画のよるプロジェクト「Qui salue qui ?/誰が誰に挨拶を?」は1970年のロラン・バルトの日本旅行と『表徴の帝国』(『記号の国』)の出版を出発点とするもので、今の時代と向き合う人に対し、多文化的で、情報通信網が途轍もなく発達した世界において、自らが置かれた状況について考える手立てを提供しようとするものです。このプロジェクトは展示、出版、シンポジウムや討論会の形で展開されることになります。
ロラン・バルトを指標として、日本における二人のリサーチは彼らが慣れ親しんだ思想の豊かさを、型にはまらない漂泊の形で、まさに遥かな地に位置する前代未聞のフィールドにおいて実験し、検証する機会となりました。新たな現実に身を投じた二人は、記号学者バルトの場合と同様、ジャポニズムを避けて通ることも、無知と異国趣味を特徴とするこうした立場を貫き通すこともできませんでした。
二人のリサーチはロラン・バルトの思想の日本における受容についても、特にビジュアル・アートの例を中心として取り上げ、今日の日本におけるバルトの影響力の重要性を把握しようとしています。これを行うに当たって、二人は日本におけるバルトの専門家、理解者、支持者や一般読者に対する調査を行いました。また、造形芸術、文学、人文科学、建築などの各分野で活躍するさまざまな話し相手との接触も図りました。
こうしたバルトと日本をめぐる二重の探求は、今日においてバルトの批判的思想が備えたこの上ない重要性を明らかに示すことになりました。