表象の問題はグラフィックアートの核心をなしています。抽象的な概念をイメージを用いることで形あるものに表現することにより、言語や記号が生み出されます。そしてさらには、私たちの日常や想像の領域にある一連のグラフィカルな要素が生み出されます。こうした論理が実践の中心に据えられた時から、マクシーム・マティアスは過ぎ去る時間の痕跡、おぼろげな記憶、匂いなど、表象することが難しい要素に関心を寄せながら、その限界を探ることに努めてきました。それは、グラフィックデザイナーの標準的なツールを超え、斬新なツールやメディアを探索するという観点に基づくものです。こうした仕事を継続する上で、日本はグラフィックツールの再定義に必要な形、色、素材の利用に関する比類なき研究フィールドとして避けて通れません。マクシーム・マティアスはこうした再定義を2つの観点から探究したいと考えています。つまり、日本のグラフィックシステムの象徴的性格と豊かさの観点、そして数年前から実践している《香道》という所作と内省の芸術の観点です。
このレジデンス・プロジェクトでは職人とのコラボレーションや香道の実践を拠り所として、表象技術の習得、独自のグラフィック形式の探究、共感覚の実験や出会いと学びを通して、種々雑多な要素からなるリサーチ資料集をまとめることが目指されます。